酒精雑記

飲む日も飲まない日も

「行き道」

昨日の酒量 ヱビス350×1

ひきつづき『五年の梅』。2編目の「行き道」も、市井の人が自身の心の歪みと向き合う話。浅草と本所を隔てる隅田川に、男女の心の距離、そしてあったはずの人生と現実との距離感を象徴させている。

夫への愛が尽きた女は、脳卒中で言葉も話せなくなった夫の介護を女中に任せきりとすることで復讐を続けていた。その隙間を埋めるように幼なじみの男と良い仲となるが、夜の逢瀬のさなかに暴漢に襲われ男は重傷を負い、女は、その年格好を見た暴漢からBBAと罵られる。やっと傷の癒えた男からの決意の誘いを受け、自身の心が「ひとでなし」とつぶやく中で女は逢瀬に出向くが、吾妻橋で身投げしそうになった若い女を助けたことをきっかけに、橋を渡らず自宅に戻るところで物語は終わる。

戻った自宅に約束された未来があるはずもないが、橋を渡れない女の心の揺らぎが何ともせつない。

文章表現やエピソード展開には若々しい荒さや武骨さが目立つ。近年の流麗な作風に辿り着く前の作者の原点を知るという意味で大変興味深い。