酒精雑記

飲む日も飲まない日も

『五年の梅』読了

昨日の酒量 ヱビス350×1

引き続き「蟹」「五年の梅」を読み、本作品集を読了した。

5編の中では「蟹」が一番好みである。3度目の嫁ぎ先で初対面の夫と蟹を食べるシーンから始まるストーリーは、夫が妻の窮地を救いに来たシーンで終わる。なぜ妻の秘密を知って先回りできたのかという謎が明かされないため筋書きのリアリティの点で若干の問題を残すものの、岡太の素朴さと武骨さが醸し出すかっこよさに痺れた。

「五年の梅」は主人公による友思いのヒロイックな行動を賛美するストーリーかと見せて、さにあらず、剛胆さの中に潜む自らの浅さに気がつき苦悩し、その後に再生を迎えるという意外な展開の一話であった。最初の行動も実は全くの思い違いという設定が明らかとなったところでトホホ感にあふれてしまうため、「蟹」の方が好みであった。

もっとも本作品集は、自分の弱さと歪みの中でもがいて生きる人の姿が主題となっており、「蟹」の夫だけ、終始一貫ブレのない男とされている点で不公平かも。そのためか川本三郎の巻末解説もこの作品への言及は著しく淡泊である。

次は小川洋子琥珀のまたたき』。本作もリアル書店で出会い頭に購入した1冊である。