酒精雑記

飲む日も飲まない日も

『志乃ちゃんは自分の名前が言えない』

昨日の酒量 キリン一番絞り中瓶×1

原作マンガ未読の状態で表題の映画を視聴。言葉が出ないもどかしさの中でため込まれた熱量は、糸を引いて垂れる鼻水さえも美しく輝かせる。主演の2人が瑞々しくも不格好で何とも愛おしい。加代が路上に出るときの不安そうな表情。夕映えの橋の上から溢れ出る志乃の歌声の高揚感。体育館でもう一度、と期待は高まるが、一度壊れたものは簡単に元には戻らないのが現実の切なさだ。安易な大団円に逃げず、でもただ壊れただけではなく、壊したところから生まれたものがあることを示したエンディングがとても良い。

体育館でのバンド演奏といえば当然ながら『リンダ・リンダ・リンダ』が連想されるが、むしろ本作は、海辺の町を舞台に人としての生きにくさと音楽とを描いた佳作である『くちびるに歌を』の系譜を継いで、これをさらに深化させた映画と位置づけたい。この流れの中で、津村記久子『ミュージック・ブレス・ユー!!』が映画化されることを是非とも期待したいのだが。