酒精雑記

飲む日も飲まない日も

『球道恋々』

プラチナの万年筆を買ったのに、早々に紛失してしまった。嗚呼。背広のポケットから不意に出てきたりしないかとしばらく様子を見たものの、結局どこで無くしたのかも皆目見当が付かないまま、諦めの境地に至る。

替わりにと購入したパイロットのキャップレス(デシモのF)であるが、これは大変使い心地が良い。手帳にその日の酒量も含めた備忘のあれこれを、ちまちま書き込むのに丁度良い細さである。何よりキャップを外してはめてまた戻してという手間がないので、シチュエーションを選ばず書けるという自由度の高さがたまらなく快適である。

その結果としてではあるが、紙の上で書いてしまうと、ブログに書こうという意欲は多いに減退してしまうことをも知る結果となった。ましてやこの新型ウイルスが猖獗を極める中で、このアカウント名で投稿するのもなんだかなという気分もあり、かといって名前を変更するのもどうかしらんという気分ももちろんあって、誰が読むというほどではないこのサイトをまるで放置する日々が続いてしまった。

さて、プロ野球の開幕は延期となったまま、未だ見通しが付くことなく、交流戦の中止だけが早々に確定するという寂しい状況にある。贔屓のチームの好不調を見れば、いずれにしてもその心境を書かずにはおれなくなるが、練習すらままならぬという報道しかないこのところの様子では、キーボードを叩きたくなるほどの情動が生じる情報すらなく、何とも味気ない砂を噛むような時間だけが過ぎていく。

我がドラゴンズのみならず、もはやプロ野球の話題は過去の回想一色であり、それそれで味わい深いものの、さして緻密なファンではない自身としては、回想について書くだけの能力も持ち合わせず、いよいよ書き連ねることのない日々が続いてしまった。

この1週間でようやく在宅ワークの場所と備品を家庭内で確保するに至り、おっかなびっくりではあるものの、仕事はすれど出勤しないという生活のリズムにも慣れてきた。仕事の予定も2週間分はほぼ吹っ飛び、外出しないことが一番の仕事となるこの日常をやりすごすには、いかに最良の読書の時間をとるかにかかるものと悟るに至る。あとは正しい時刻に夕食を摂れるようになったことへの褒美としての夜の映画鑑賞がキモとなりそうだ。

そんな中で木内昇の表題作を読み終えた。学生野球が伝来した直後の創業者利益を満喫し終えた一高野球部の苦境期に、学生時代と今の境遇に対する屈託にあふれた三十男がコーチに就任し、個性的な学生選手らと苦楽をともにしながら、クラブチームでのプレーの機会を得たことなどを通じて、誰よりも当人自身が成長していくという、ほろ苦さをまぶしつつも終始明るく楽しい物語である。著者の作の中では、陰りのないスコンと突き抜けた明るさに照らされた一品という点で『浮世女房洒落日記』に重なるものを感じた。

輸入したてのスポーツのルールをわずかな資料から読み解きつつ、個性溢れる対戦チームの面々との友情を重ねながら、しのぎを削りあった日々を振り返るという営みには、いささか覚えがあることもあって、ああそうだよなこんなかんじだよなという感覚を思い出しながら楽しく読み進めることができた。この一作は是非、映画かアニメでも鑑賞したいものだ。群像劇として秀逸な作品ができあがると思うのだが。