映画『日の名残り』
昨日の酒量 uncountable
カズオ・イシグロの原作は既読だが、ずいぶん昔なのでディテールは忘れてしまっている。ただ、主人公が慣れぬ車を数日かけて運転して英国西海岸に旅するストーリーが主で、その中に戦前の栄光の時期についての回想が入るという構成だったはず。ロードムービーな作りを想像していたので、肩すかしを受けた感は否めないが、ジェームズ・アイボリー作品らしい貴族の生活の重厚さと、英国の緑に囲まれた光景が印象に残った。
アンソニー・ホプキンスの演技は素晴らしく、ヒロインから婚約を告げられた時の表情も説得的である。不意を突かれた瞬間を取り繕おうとすると、男はこんな顔をさらすしかないのだ。
他方で、ヒロインが執事である彼に惹かれていく過程がすっ飛ばされており、年格好の乖離も大きいため、エマ・トンプソンが自室で大泣きするシーンがすとんと胸に落ちないのは残念。
原作のキモとなっている「執事道」を信奉する主人公のズレ感と、ズレた人生をぶれずに貫いているからこそ生まれる彼への思慕敬愛の念が画面から染み出していてほしかった。