酒精雑記

飲む日も飲まない日も

6月のふりかえり

6月はいよいよ外呑みが平常運転化したが、それでも休肝日は12日あった。バランスの良い感じでまずまず節制できたのではないか。

読書は3冊。

吉村昭の「島抜け」は、幕末に種子島送りとなった講談師の数奇な脱走劇を描いた中編。キジも鳴かずば打たれまいが、講談師が生きていくには話芸を生業にするしかなかったか。安定の良作であった。

「海の仙人」は絲山秋子のオフビートな短編。ファンタジーが出てくるがそれほどファンタジーではなく、たぶんファンタジー抜きでもストーリーは成り立つのだが、やっぱりファンタジーがいてナンボの小説という、なんだかよくわからない感想が残ったが、何とか映画化してもらえないだろうかと感じるくらい好感を持てた一作でもある。かの若手女性2名が同時受賞したときの芥川賞候補作ということで、当時の選評を読んでみたが、山田詠美による酷評がなかなかに痛いところではある。確かに、宝くじ当選によるファイナンスフリーダム、男児性虐待、若年がん闘病、男女の恋愛込みの友情に加えてファンタジーの登場となると、短編にしてはちょっと要素を盛り込みすぎた感は否めないが、それでもやっぱりこころに引っかかる小説である。

別に一周忌という帯に誘われたわけではないが、西村賢太の「小銭をかぞえる」も読んだ。いわゆる秋恵ものの短編が2本収録された文庫である。わかっちゃいるけど、とにもかくにも「ぼく」のクズっぷりが清々しい。茨城の特定郵便局まで無心に出向くあたりの身勝手な内心の語り口などは、ほとんど古典落語の域に入っているが、これが私小説であり現におおむねこんなことが起きているかと思うと、読みながらニヤニヤしてしまった。カップリングされた短編でも、女が大事にするぬいぐるみを破壊するだけでは飽き足らず、マヨネーズだったかをふりかけて確実にダメにする無用な冷静さが馬鹿馬鹿しすぎる。これだけやらかしても憎めないと周りが思ってつい甘やかしてしまったから、早世してしまったのかなあ。何はともあれ合掌。

映画も3本。

「ケイコ、目を澄まして」は豪雨で新幹線に閉じ込められた際に観たので、途中下車の宿探しやつかのまの小止みを突いての移動などで何度も中断されてしまったのだが、過剰な説明を排して観客を信用した編集となっているところに好感が持てた。気持ちがよれたケイコが戻ってくるきっかけのところだけがちょっと弱い感じがしたところだけが残念だったが、ボクシングが痛いということをきちんと表現した岸井ゆきのの熱演が光る佳作であった。

「レッドファミリー」は北朝鮮からのスパイが韓国で家族のふりをするというなかなか魅力的な設定の映画だったが、やはりコメディに振り切れない題材であるだけに、生煮えな印象は否めなかった。大きなウソをつくための細部の詰めがいささか甘かったか。

「怪物」は劇場で観た。前評判でハードルを上げすぎたせいもあるが、うーんどうなんだかなという感想を持ってしまった。エンドロールでプロデューサーの名を観て、ああ自分とは相性が悪いからそりゃそうだと妙に納得するに到る。凝ったシナリオには一定の評価があるだろうなとは思うものの、この人の作ならやっぱり軽快な会話の妙を楽しみたいところであり、この監督の作風とは食い合わせが悪かったんじゃないかしらんと思う。そして、ものの見方は立場次第、というテーマは、これまでに語り尽くされており、やや意図的なミスリードを誘ったスジが目立ってしまうと数々のアハ体験はEH田ものの「で?」という以上の感想を持てないのであった。出てくる役者は皆素晴らしいが、学校パートは作られた怪物感が前面に出てしまっていて残念。お役所的組織に潜む本当の怪物はもう少し凡庸で怪物には見えないからこそ恐ろしいのである。もう1点、これも好みだが、小学生男子2名にかぶせた性的な要素については、映像上ではもう少し暗示的なところまでに留めてほしかったような。

さて、中日ドラゴンズ交流戦は今年も新庄日ハムに煮え湯を飲まされて負け越しとなったが、セリーグ対戦再開後の3カードは、粗もまだまだ目立つものの、用兵もそれなりに落ち着いてきたことが奏功したか、なんとか4勝4敗1分けの五分で乗り切った。阪神DeNAと苦手の甲子園とハマスタで対戦してこの成績は、まずまずと言えよう。昨日も、細川が冷めてきたものの、石川昂弥の復調がいよいよ本物と思わせる同点ツーランを観ることができるなど、負けた試合の中にも十分な希望を感じることができる結果であった。少し連投が過ぎるようにも思うが、いよいよ支配下となった松山が豪快な投球を重ねていることが本当に頼もしい。木下受傷の間隙を突いて昇格した石橋も初ホームランを含む豪打爆発で、1つ1つ自信を付けているという段階にある。

ファームでは、根尾もまだまだ修行が必要ではあるものの、先発で結果を残しはじめており、キャンプのころの変調から比べると随分と形になってきたようだ。梅津とともに後半戦で戦力となるようなら、シン・ドラゴンズの形がいよいよ見えてくるのではないか。