酒精雑記

飲む日も飲まない日も

『白い航跡』(上・下)

長らく上巻の途中で読みさしとなっていた吉村昭による高木兼寛の評伝を、あらためて最初から読み直し、今回は最後まで読み終えることができた。『蚤と爆弾』の世界に至る医学と軍の関わりは、日本の近代医学の出自が戊辰戦争の戦傷治療に端を発し、以後も綿々とつながっていることを良く理解できるストーリーであった。『彰義隊』や『ポーツマスの旗』と交錯する場面があるところもとても興味深い。終わりの数ページでさらりと触れられた晩年の兼寛の姿には老醜の香りが漂い、なんとも切なくなる。