酒精雑記

飲む日も飲まない日も

飢餓と萌えと

ようやく『卵祖父』を読了。うっかり年を越してしまったが元旦午後のつれづれを利用して通読に至る。

レニングラード包囲戦のサイドストーリーとなる本作を飽食の年末年始に読むことにしたのはチョイスとして間違いだったなあと思う。もっとも、ストーリーはメタ小説としての軽みを生かした導入から、一転していきなりのカニバリズム込みの深刻な飢餓と、独露双方からの理不尽な暴力の重さを読者に容赦なくぶつけた上で、中盤からはビルドゥングスロマンとしての冒険活劇を経て、最後は萌え萌えのボーイミーツガールものに仕立ててから冒頭の祖父母紹介に再度繋げていくというニクい仕組みとなっており、最後の一行で冒頭の伏線も軽やかに回収されている。上手いなあと思う。全く関心もなかったので観たことすらない映画版X-MENの脚本家であるということらしいが、ちょっと観てみようかという気にすらなった。

10代男子が結果として夭折を余儀なくされる兄貴分から聞かされるエロ話と馬鹿話の懐かしさと楽しさが、全体を貫く通奏低音となっているため、史実としてのカニバリズムの重さとは別の意味で人には勧めにくい小説となっていることが残念だが、読むべき一冊として勝手に推奨しておくには十分すぎる充実度である。

 

昨日の酒量 ヱビス350×1/2、千代むすび強力1合、千代むすび純米辛口×2合