酒精雑記

飲む日も飲まない日も

1月・2月のふりかえり(除く中日評)

正月早々にコロナを拾ってしまい、仕事にあけた穴のリカバリーでどたばたしているうちに、はや2月も末となってしまった。解熱後も乾いた咳が続いたが、ようやく喉の調子も落ち着いてきた。いつもの風邪なら3週間くらいで咳が止まるので、随分長くかかってしまった。

休肝日のメモもまめに書かなくなったため正確性はあやしいものの、1月は14日、2月はここまで7日くらいか。平日の仕事先の帰りがけで一杯飲むことが増えたので、休肝日は減少気味ではある。

読書は年明けから7冊。買いだめしてあった小説を隔離中に何冊か読むことができた。

「火星に住むつもりかい」は伊坂幸太郎の仙台ディストピアものである。きれいに伏線は回収されるが、欧州の現実のディストピアを見ているとおとぎ話感が出てしまうか。武器の磁石が物理学的に正しいのかしらんというところがずっと気になってしまう一冊でもあった。

「凍河」(上・下)はめったに手を出さない五木寛之の新聞連載小説の文庫版。葉子がファムファタールであることを予告しているわりには、最後まで物語が動き出さないまま終わりを迎えてしまったような。小説とは言え精神科医が患者に手を出すのはあまりに御法度すぎて、作品世界に入り込めなかった。

「牛を屠る」は「おれのおばさん」の佐川光晴が小説家になる前に働いていた大宮の屠殺場のドキュメンタリー。現場を見ないとどんな作業をしているのかわかりにくいところもあったが、佐川氏がまっこと骨太な人生を送っていることが良く理解できた良作である。

「高架線」は映画「花束みたいな恋をした」に出てくるサブカル(?)情報の中に名前が出てきた滝口悠生によるアパート小説(他には「三の隣は五号室」「木暮荘物語」くらいしか思い浮かばないけど)。私自身は京王沿線民族であったので西武線沿線はあまり馴染みがないが、変遷していく住人達の個性が愛おしく感じられた。

「死んでいない者」は、この流れで買ってみた滝口悠生の2冊目。なんということもない場所のなんということもない葬儀に出席する一族のお話だが、ところどころでぽーんと視点が浮遊するところが面白い。文庫でカップリングされたスナックのお話も良い。飲み屋で人の来し方に触れるのがいかに無粋かを心に刻みました。はい。

「光」は三浦しをんによる重厚な犯罪譚。離島で育った幼なじみが震災を契機として犯罪に手を染めたことを胸に秘めながら大人になって・・・というのは「白夜行」と「幻夜」をミックスしたような筋ではあるが、実は最初から運命の女性が男を裏切っているというところが切ない。東日本大震災の数年前の作だが、津波の猛威をリアルに伝える内容となっているところも凄い。「まほろ」を書き継いでいる間に、こんなのも書いていたとは。

海がきこえる」は昔懐かし氷室冴子ラノベの文庫新装版。たまたまウェブで目にしたのでつい買ってしまった。アニメの内容も高知の未成年が酒盛りする話というくらいの認識しかない(コンプラ的に地上波ではなかなか流れないせいもあって)のだが、原作は中央線じゃなくて西武線だったのか。ジブリは原作の改変に遠慮がないことをあらためて知ることとなった。はたして里伽子が高校生~大学入学男子にとって魅力的であることが説得的なのかどうか、自分がきっちり大人の後半戦にたどり着いてしまっているとなかなかビミョーかもしれない。とはいえ、物語がさあこれからというところでこの本がエンディングを迎えているので、続編を読んでしまうかも。

映画は9作。コロナ隔離中に視聴がはかどってしまった。

「四十七人の死角」は市川崑による赤穂浪士もの。中井貴一の又四郎が良いが、筋書き中では肝腎なところでディフェンスの甘さが際立つのが気の毒。宮沢りえの良い時期が真空パック保存されている貴重な作だが、健さんと恋に落ちる必然性が説明されていないので、やはり話としては弱いか。資金繰りや情報戦の視点は斬新で興味深かった。でもテロはだめ、絶対。

男はつらいよ」の第1作も観た。最初はこんな感じなのねというところが興味深かったが、寅次郎がたいした理由もなくさくらに手を上げたシーンでドン引きであった。

「アベック・モン・マリ」は、今は亡き大杉漣の情けない怪演が楽しい小粋な作品。ギクシャクした会話が続く劇の中で板谷由夏がとても良い感じでさすがのキャリアだなあと思って調べたら、なんとこれが女優としてのデビュー作であった。由夏姐さん恐るべし。

「シーサイド・モーテル」はキャストの濃さで思わず視聴した一作。わかっていても古田新太が窓外を通りかかると笑ってしまう。これは卑怯だ。麻生久美子が相も変わらずキュートだが、どうせなら最初から最後まで舞台はモーテル内で完結してほしかったか。

千年女優」もコロナ禍隔離中に視聴。筋についてはうまく評価できないところもあるが、観たことのないタイプのアニメであり一見の価値があった。最後のセリフは聞いた瞬間ガクッときたが、良く考えたら千代子は女優なんだから無問題であった。

「花束みたいな恋をした」も、この療養中にえいやっと覚悟を決めて視聴した一作。元京王井の頭線の民として明大前が映画に出てくるのは見逃せないのであった。予告編では何ともこそばゆくて、合わないかなと思っていたが、想像より入り込んで楽しく観ることができた。具体名が挙がってくるサブカル実例の中で、音楽とお笑いはさっぱりだが、本棚は6割方一緒というくらいのシンクロ率。終電を逃した際の大人カップルの通ぶった会話に、実写版の「魔女の宅急便」をぶっこんできたところもツボであった。脚本の坂元裕二は「邦キチ!映子さん」を読んでいるはず。知らんけど。

「愛なのに」「猫は逃げた」は監督と脚本を入れ替えてキャストもゆるいつながりがあるというR15のカップリング作。

「愛なのに」は三鷹に実在する古書店が素敵だ。朴訥とした瀬戸康史も悪くないし、河合優実のつっけんどんな愛の語りも良い。何より結婚式打ち合わせ担当者とくっついてしまった中島歩の浮気の言い訳が最高だった。

「猫は逃げた」は亜子役の山本奈衣瑠とオセロ(という名前の猫らしい)の演技が良かった。ちょこっとだけ出てくるオズワルド伊藤兄のインチキ文化人っぷりがサイコーに笑えた。アガペーとエロスを繰り返すナレーションの声が瀬戸康史であることを知るエンドロールも楽しかった。

「フレンチ・ディスパッチ ザ・リバティ、カンザス・イヴニング・サン別冊」はウェス・アンダーソンの凝りに凝った映像が展開する目で見て良作だなあと思える映画だったが、字幕がナレーションのマシンガントークを拾い切れていないためか、はたまた私の注意力が散漫だったせいか、お話の構造が冒頭で十分つかめないまま中身に入ってしまったので少々消化不良となった。

長くなったので、我が中日ドラゴンズのキャンプ感想などは別稿にて。

 

※2023/03/02 読書について追記

メモ漏れで2冊抜けていた。

「こちらあみ子」も「花束」で今村夏子が何度か出てきたので、そろそろ読んでみようかと思って購入した1冊。誰も悪くないのに自分も周囲も容赦なく傷ついていく切なさよ。そんな中でチラリと救いをもたらす同級男子はあみ子に名前も覚えてもらえていないのだが、彼の声掛けシーンがなければ、あみ子当人はあっけらかんとしてるとは言え、もっと殺伐とした読後感になったであろう。あんたはえらい。にしても筆者はデビュー作にしてこれだけ凄い小説を書いてまったのね。それはそれで大変だ。そのうち映画も観てみよう。

「献灯使」は大災害後の鎖国日本を舞台とした多和田葉子の1冊。人権が確保された世界の大切さを思い知るが、そのあたりまえが案外紙一重であることを切実に感じる昨今である。なんだかなあ。

・・・ということで年明け2月末までで合計9冊。